地球の未来を編むワークショップ vol. 1
SFプロトタイピング
ワークショップ

横河電機株式会社
SFプロトタイピングワークショップ
Day4 レポート

世界を変えるファーストステップ

東京大学One Earth Guardians育成プログラム(以降、東大OEGs)のメンバーおよび横河電機株式会社(以降、横河電機)が参加し、「SFプロトタイピングワークショップ」が開催されました。これは「100年後の地球のために私たちは何ができるか」を命題に、未来への想像力をより自由に膨らませるためのプログラムとして企画されたオンラインワークショップです。

1か月にわたり開催してきたオンラインプログラム「SFプロトタイピングワークショップ」。これまで「Day1:SFプロトタイピングを定義する」「Day2:実践する人の視点を知る」「Day3:プロトタイピングを実践する」を実施し、今回の「Day4:自身の視点を問いかける(発表する)」が最終回となります。

人と地球の関係はどうなる?個性的な作品が集まった作品発表会

Day3では、これまでの学びをもとに、各々の問題意識からSF小説の執筆に挑戦。Day4では、固定観念から逸脱した自由なビジョンを提示することで、他の参加者やゲストから共感を得ることはできるのでしょうか。

ワークショップ参加者は一人ずつ自身の作品を発表。プレゼンテーションの持ち時間は1人あたり3分で、「人と地球の関係」という大テーマのもとで設定した問いを発表し、物語で描いた象徴的なシーンを紹介します。さらに総括として、ストーリーを執筆する中で浮かんだアイデアやフィードバックを受けて感じたことなど、自身の思考に起きた変化を振り返りました。発表会にはここまでのワークショップに伴走してきた樋口氏に加え、Day2にゲスト参加した深野先生、長谷川氏も駆けつけました。

「戦争はなぜなくならないのか」人間と自然の生存戦略

戦争はなぜなくならないのか、という永遠の命題を問いに設定した東大OEGs 川瀬さん。広大な美しい森を眺めていたはずが、実はそこは「地雷に生える木」が開発されたことによって生まれた森であることが判明します。地雷は命を奪うために人が生み出した道具ですが、そのエネルギーを生命を育むために利用する生物がいてもおかしくないのでは、という発想から物語が展開しました。

それに対し樋口氏は、自然のもの、文明の外側にあるものと思いがちな森に複数の見方を与えた点に注目。軍事利用のために人工的に開発された森という視点を持ちながらも、俯瞰的に見るとそれすらも森の生存戦略かもしれない、という想像の広がりが楽しめるとコメントし、「書き上げたら商業誌に載るレベルの作品になりそう」と絶賛しました。続けて長谷川氏も「この植物はどうして地雷を養分にし始めたのか、想像すると面白い」とコメント。たんぽぽの綿毛のように爆発を原動力に種が飛散するなど、この物語から広がるアイデアを提案しました。

「環境に良い」を盲信することの危うさを考える

東大OEGs 高田さんは「環境に良い」とは何か、を起点に、一つのことを盲信することの危うさを考える作品を発表しました。環境にやさしい商品が安く購入できる「ぐりーんらべる」認証が開発され、ぐりーんらべる商品しか扱っていない居酒屋で食べ放題だからといって食べきれない大量の料理を注文してしまう人々。ぐりーんらべる商品によって東京から蚊は絶滅し、環境にやさしいはずの商品が生態系を壊していく矛盾を描きました。

深野先生は「(望ましくないが)本当にあり得そうな未来」と高田さんに共感。「持続可能性」がバズワードとして氾濫したときに、それを忘れて大量消費し本末転倒な未来に結びつく可能性があることを指摘し、「研究者として覚えておきたい」と話しました。高田さんも、「環境にやさしい商品を手軽に購入したい」という発想から走り出したものの、物語を書き進めていくうちに良いことばかりではない、危うい側面を持ちうることに気付いたとワークを振り返りコメントしました。

価値観の逆転に見る、『野生の森』のアナザーストーリー

今回のワークショップで得た気付きや関心をもとに、横河電機の前村さんは樋口氏の作品のアナザーストーリーとして物語を展開。生物保全の価値観が逆転する40年の変遷を描きました。野生の森に生息するグロテスクな昆虫の価値が思いがけないことから逆転。保全の対象が変わり、これまで保全の対象とされていた生物が淘汰されるという物語です。「社会を左右する、価値観の強力さを感じた」と感想を述べました。

樋口氏は、「深野先生のプレゼンテーションからの着想が見事に反映されている」とコメント。自分ならどうするか、といった思考を物語として消化し発信できている点を評価し、「このワークショップをやった甲斐がありました」と顔を綻ばせました。深野先生は前村さんの作品を受け、「社会の価値観が変わると目指すべき方向がわからなくなる」という価値観に基づいた保全の欠点を指摘。愛らしい生物の写真を掲出して募金を集めている団体も少なくない現状を指摘し、「現実になる危険性を秘めていると感じた」とコメントしました。

「小説は思考感度を高めるツール」SFプロトタイピングを実践して

全員の発表が終了し、樋口氏は総括としてこのワークショップに込めたメッセージを改めて参加者に伝えました。「小説を書くという営みは、情報整理など思考感度を高める有用なツール。実際に書くという経験は貴重なので体験してもらえてよかった。ぜひこの経験を糧に研究や事業を行ってほしい」(樋口氏)。長谷川氏は参加者の作品のクオリティの高さに驚きつつ、自身の経験に絡めて「いろいろなアウトプットの方法を知ることも大切」とコメント。また、深野先生は十人十色の自由な発想を感慨深く振り返り、「SFは直接は人生の役に立たないかもしれないが、一見ムダに思える知識でも、そこから自由な発想をすることができる。これからもどんどん読んでほしい」とSFファンならではの熱いエールを送りました。

Day4では、作品のプレゼンテーションとして自身のテーマ設定や印象的なシーンを発表することで、世の中に問いを投げかけるファーストステップを踏むことができました。また、4回にわたるSFプロトタイピングワークショップを振り返り、このフレームワークを各々の活動の中で今後どのように活用できるかが見えてきたのではないでしょうか。

「これまで実験結果などを考察する際、予め考えていた結論に導きたいあまり他の可能性を無意識に排除していた かもしれない」という横河電機の前村さん。「開発したアウトプットがどういう影響をもたらすのか、⻑い時間軸や他者⽬線からみたら本末転倒なことが起こる可能性があるか否かを今後考えていきたい」と言います。

「なぜこんな物語になったのだろうかと改めて振り返ってみると、無意識に⾃分が影響されているものに気付かされました」という東大OEGsの山口さん。「表れたものを⾒つめていくことで、⾃分がやりたいことやその動機をはっきりと⾃覚できるようになるかもしれない」と言います。

未来を生み出すためには固定観念にとらわれない発想と、共にアクションを起こす仲間が必要です。SFプロトタイピングのように、ビジョンを提示し共感を獲得する力こそが、「実現したい未来」を引き寄せるのではないでしょうか。参加者の皆さんが、今後どんな未来を作っていくのかが楽しみです。

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ゲストプロフィール
長谷川 愛(アーティスト、デザイナー、東京大学 特任研究員)

バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、テクノロジーと人がかかわる問題にコンセプトを置いた作品が多い。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称 IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後ロンドンへ。数年間Haque Design+ Researchで公共スペースでのインタラクティブアート等の研究開発に関わる。2012年英国Royal College of Art, Design Interactions にてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて研究員、2016年MS修士取得。2017年4月から東京大学 特任研究員。(Im)possible Baby, Case 01: Asako & Morigaが第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。森美術館、アルスエレクトロニカ等、国内外で展示を行う。

深野 祐也(東京大学大学院農学生命科学研究科 助教)

東京農工大学農学部卒業、九州大学大学院で博士号を取得。学振特別研究員DC1、PDなどを経て、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科生態調和農学機構助教。進化生態学が専門。生物の進化・生態と人間活動の関わりに関心がある。農地や都市での生物の急速な進化や進化理論を生物多様性の保全や農業に応用する研究をしている。

樋口 恭介(SF作家)

SF作家、会社員。単著に長編『構造素子』〈早川書房〉、評論集 『すべて名もなき未来』〈晶文社〉 、その他文芸誌等で短編小説・批評・エッセイの執筆、noteで短編小説の翻訳など。現在、SFプロトタイピングをテーマにした単著を執筆中。

[参考文献]
『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること』
アンソニー・ダン、フィオーナ・レイビー 共著、久保田晃弘 監修、千葉敏生 訳(2015年、ビー・エヌ・エヌ新社)
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『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』
長谷川愛 著、塚田有那 編(2020年、ビー・エヌ・エヌ新社)
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