地球の未来を編むワークショップ vol. 1
SFプロトタイピング
ワークショップ

横河電機株式会社
SFプロトタイピングワークショップ
Day3 レポート

固定観念を解放し、野心的な妄想を繰り広げよう

東京大学One Earth Guardians育成プログラム(以降、東大OEGs)のメンバーおよび横河電機株式会社(以降、横河電機)が参加し、「SFプロトタイピングワークショップ」が開催されました。これは「100年後の地球のために私たちは何ができるか」を命題に、未来への想像力をより自由に膨らませるためのプログラムとして企画されたオンラインワークショップです。

約1か月、4日間にわたり開催される各回の狙いは、「Day1:SFプロトタイピングを定義する」「Day2:実践する人の視点を知る」「Day3:プロトタイピングを実践する」「Day4:自身の視点を問いかける(発表する)」です。前回のDay2では、生物学者の深野先生(東京大学大学院農学生命科学研究科)、アーティストの長谷川愛氏をゲストに迎え、クロストークを通じてフィクションを描く意義、フィクションを自身の活動に取り込み実践する過程をインプットしました。

今回のDay3ではプロトタイピングを実践すべく、実際にSF小説を書いていきます。引き続きSF作家の樋口恭介氏ナビゲートのもと、ペアワークを挟みながら野心的な妄想を展開し、オルタナティブな世界を模索します。SFを書くことは、常識を超えるような発想を生み出し、その中で描かれる人々の思想や暮らしぶり、環境やデバイスなど細部までリアリティのある未来を描き出すことを可能にします。今回の全4回のワークショップでは、「人と地球の関係」というテーマを元に、参加者それぞれが提示する人と地球の未来を描きます。

「不思議な概念」を生み出すことが、想像を繰り広げる第一歩

小説のライティングに慣れない人が執筆するにあたり樋口氏は、作家の田丸雅智さんが、著書『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』の中で、「関連性のない2つの名詞を組み合わせ、不思議な概念を生み出す」という手法を紹介していることに触れて説明します。たとえば、「太陽」という単語から「発電に使える」「ぽかぽかする」という言葉が連想されたら、それを「タコ」や「傘」という脈絡のない単語に接続します。「発電に使えるタコ」「ぽかぽかする傘」という不思議な概念を起点に、想像を広げることができます。

問題提起に始まり、失敗を経て成功する「三幕構成」や「序破急」、「起承転結」といったよく知られるメソッドにも触れつつ、樋口氏は自身でもよく使う手法として、書きたいシーンを中心に、そのシーンの背景や前後のシーンを膨らませていく方法を紹介しました。

物語を膨らませるコツは?「時制」と「自問自答」がイメージを広げるカギに

続いて、紹介された手法を参考に、執筆作業に入ります。『野生の森』のアナザーストーリーとして物語を展開するもよし、まったくのオリジナルストーリーを作り上げるもよし、文章にテーマを設定し、物語を膨らませていきます。途中のペアワークでテーマに立ち返ったり、場面要素を噛み砕いたりしながらも、あくまでSFプロトタイピングとして自由度の高い世界観を意識しながら創作を行いました。

執筆といっても原稿用紙やWordの画面に打ち込んでいくわけではありません。複数人が一画面上で進捗や課題を共有しながら進められるオンラインホワイトボード、Miro上で書いていきます。Miroを使うと、アイデアやフレーズをメモとして書き留め、必要なタイミングで物語に取り込めるというメリットがあります。

テーマをもとにキーワードや設定を付箋に書き出すまでは進められたものの、そこから場面の想像が膨らまない場合、どうすればよいのでしょう?樋口氏は、設定を「過去形」の文章に書き起こしてみることをアドバイス。過去形にすることで話している当人はその出来事より未来の世界を生きる人になります。その状況を語る人は誰なのか、何を目的に語っているのか、など場面が少しずつイメージできるのでは、と樋口氏は説明しました。

アイデアと客観的視点の間を行き来しながら世界を広げていく創作活動

30分ほど創作を進めたところで手を休め、ペアワークに移ります。Day1から一緒に活動している4人のチーム内でペアを組み、テーマと文章にずれがないか、客観的な視点からすり合わせを試みました。各グループを回りながら執筆、そしてペアワークの様子を見ていた樋口氏も「面白いアイデアがたくさん出ていた」としつつも、さらにイメージを広げていくポイントとして「今狙っているゴールの一歩先まで展開できると良いと思います」とアドバイスを送りました。思い描く未来の良い側面だけでなく悪い側面、あるいは思い描いたものとは違った未来にも寄り道すると多様な視点が得られそうです。

たとえば、参加者の東大OEGs 小竹さんは、食べた植物の種子を体内に保存して芽を生やすことのできる生物「くろまるくん」を物語の中で考案しました。エチオピアが砂漠になった未来に「くろまるくん」が現れ、コーヒーの生産を復活させるという物語を綴る東大OEGs 小竹さん。物語を読んだ横河電機の榊さんは、ペアワークで「くろまるくんが登場したことによって、この後どんな未来が描かれる予定ですか」と質問しました。小竹さんはすでに結末についてもイメージしているようでしたが、敢えて別の方向に舵を切るとまた違った未来が現れるのかもしれません。

フィードバックを受けてさらに30分創作活動を行い、再度ペアワークを行います。今回のペアワークでは前回より深く、テーマに対して描かれている人物の立場など物語のディティールについて検討しディスカッションを行いました。

東大OEGs 橋元さんは「地球を傷つけない、人間の豊かな生活」をテーマに物語を創作していましたが、書き進めていくうちに、人間視点ばかりに重きを置いていることに気がついたと不安げ。物語を読んだ横河電機の眞鍋さんは「地球の豊かさが描かれていると思う。満天の星空が見える状況は地球にも良い状況のように感じた」と答え、テーマやメッセージがうまく伝わっていることが確認できました。一方で「あえて言うなら地球の幸せを気にせず人間中心の考え方を推し進める人々の存在は描く余地があるのかも」と対立する立場についてコメントし、ブラッシュアップのアイデアがこの場で議論されました。

メッセージを強く押し出す「小説の表紙」を描こう

最後に、この日のワークの集大成として、小説の表紙を描くというワークを行いました。小説を象徴するような、現実世界にない概念とその登場シーンをテキストで書き出しつつ、表紙のビジュアルイメージを考えました。メッセージになり得るもの、表紙を目にして議論を呼び起こすようなものが、とりわけSFプロトタイピングという場では意義を成すのではないでしょうか。

東大OEGs 川瀬さんは「なぜ戦争はなくならないのか」をテーマに、武器から植物が生え、森へと成長していくイメージを表紙に描きました。武器から植物が生えてしまうと、武器を必要とする人々はどのような感情を抱くのか。そういったアザーサイドを考えていくとさらに世界観が深まりそうです。

Day3では、SF小説というフィクションの創作によって、固定観念にとらわれないアイデアの発想に挑戦することができました。一方で、飛躍的な発想をしながらもテーマや軸となる世界観に繰り返し立ち返りながら、またペアでのフィードバックをしながら書き進めることで、物語を通した問題提起の精度は高められたのではないでしょうか。

最終回となるDay4では、今回執筆した作品の全体発表を行います。各々の描いたSF小説に対し客観的なフィードバックを得ることでアイデアに新たな気付きが生まれることでしょう。また、自身以外のメンバーの個性豊かな発想に触れることが新たな刺激となるかもしれません。

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ゲストプロフィール
樋口 恭介(SF作家)

SF作家、会社員。単著に長編『構造素子』〈早川書房〉、評論集 『すべて名もなき未来』〈晶文社〉 、その他文芸誌等で短編小説・批評・エッセイの執筆、noteで短編小説の翻訳など。現在、SFプロトタイピングをテーマにした単著を執筆中。

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